Blog · The Selfish Giant
『わがままな大男』の英語を読む(3)とけた心と、結末の古い英語
はじめに
『わがままな大男』の英語を読むシリーズ、最終回です。前回は、春が来なくなった庭で、雪や北風たちが人のようにふるまう場面を読みました。
ある朝、大男は窓の外から聞こえる小鳥の歌で目を覚まします。塀の小さな穴から子どもたちがもぐり込み、木々はふたたび花を咲かせていました。ただ、庭のいちばん奥の一角だけは、まだ冬のままでした。今回は、この場面から物語の結末までの英語を読みます。
1. the Giant's heart melted ―「大男の心がとけた」
And the Giant's heart melted as he looked out.
意味: 窓の外を見ているうちに、大男の心はとけていった
庭の奥の木の下では、小さな男の子が枝に手が届かず、木のまわりを泣きながら歩いていました。それを見た大男の心が melted(とけた)のです。
heart melts は、かたくなだった心がやわらぐ、じんと胸を打たれる、という意味の決まった言い方です。この物語では、それがただの比喩で終わりません。何年も雪と霜に閉ざされていた庭と、大男の凍った心が重なっていて、心がとけると同時に、庭の冬もとけていきます。
このあと大男は "How selfish I have been!"(おれは何てわがままだったのだろう)と言います。現在完了の have been が、「これまでずっとそうだった」と自分の過去をふり返る気持ちを表しています。
使い方の例:
- My heart melted when the puppy looked up at me.(子犬が見上げてきたとき、心がとろけた)
- Her kind words melted his heart.(彼女の優しい言葉が、彼の心をほぐした)
- The baby's smile would melt anyone's heart.(赤ちゃんの笑顔には、誰だって心をほぐされる)
2. stole up behind him ―「そっと後ろに近づいた」
And the Giant stole up behind him and took him gently in his hand, and put him up into the tree.
意味: 大男は男の子の後ろにそっと近づくと、優しく手に抱き上げ、木の上に乗せてやった
stole は steal の過去形ですが、ここでは「盗んだ」ではありません。steal の後ろに up や into、away など方向を表す言葉が続くと、「こっそり動く、音を立てずに移動する」という意味になります。steal up behind ... で「〜の後ろにそっと忍び寄る」です。
大男はその前にも、crept downstairs(そっと階段を下りた)、opened the front door quite softly(玄関の戸をとても静かに開けた)と描かれています。creep も「忍び足で歩く」。あの大きな体の大男が、子どもたちを怖がらせないように、つま先立ちで動いている姿が目に浮かびます。それでも子どもたちは大男を見て逃げてしまい、涙で目がいっぱいだった男の子だけが残りました。
使い方の例:
- She stole into the room without a sound.(彼女は音も立てずに部屋へ忍び込んだ)
- He stole away before the party ended.(彼はパーティーが終わる前にこっそり抜け出した)
- I stole a glance at the clock.(私は時計をちらりと盗み見た)
3. Who hath dared to wound thee? ―「誰がおまえを傷つけたのか」
And when he came quite close his face grew red with anger, and he said, "Who hath dared to wound thee?"
意味: すぐそばまで来ると、大男の顔は怒りで赤くなった。「誰がおまえに傷を負わせたのだ」
長い年月がたち、年老いた大男は、あの男の子とふたたび庭で出会います。ところが男の子の両手と両足には、釘の跡がありました。
ここで、それまで現代的な英語で話していた大男の言葉が、突然古い英語に変わります。hath は has の古い形、thee は you の古い形(目的格)です。このあとも "Who art thou?"(おまえは誰なのだ)、"Nay!"(いいえ)と、古い言葉が続きます。これは17世紀の英語訳聖書のような響きを持つ言葉づかいです。手足の釘の跡は十字架にかけられたキリストの傷を思わせ、男の子がただの子どもではないことが、言葉の変化からも伝わってきます。
古い英語で you にあたる言葉は、次のように使い分けられていました。
- thou:主語(you)
- thee:目的語(you)
- thy / thine:所有(your)
- thou art:you are
- hath:has
使い方の例: 今はほとんど使われない形なので、よく知られた古い英語の文で見てみましょう。
- Hallowed be thy name.(御名が崇められますように)※主の祈り
- Thou shalt not kill.(殺してはならない)※十戒
- O Romeo, Romeo! wherefore art thou Romeo?(ああロミオ、あなたはどうしてロミオなの)※シェイクスピア。wherefore は「どこ」ではなく「なぜ」
4. that I may take my big sword ―「大きな剣を取れるように」
"Who hath dared to wound thee?" cried the Giant; "tell me, that I may take my big sword and slay him."
意味: 「誰がおまえを傷つけたのだ。言ってくれ、大きな剣を取って、そいつを討ち果たしてやるから」
that ... may+動詞の原形は、「〜できるように」という目的を表す古い形です。今なら so that I can ... と言うところです。slay も kill の古い言い方で、物語や伝説の中でよく使われます。
かつて子どもたちを庭から締め出した大男が、今は一人の子どものために剣を取ろうとしています。けれども男の子は "Nay! but these are the wounds of Love."(いいえ、これは愛の傷なのです)と答えます。この Love が大文字で始まっていることにも注目してください。
使い方の例:
- Speak louder so that everyone can hear you.(みんなに聞こえるように、もっと大きな声で話して)
- She saved money so that she could study abroad.(彼女は留学できるように、お金を貯めた)
- Come closer, that I may see your face.(もっと近くにおいで、顔がよく見えるように)※古風な言い方
おわりに
物語の最後に、男の子は大男にこう言います。"You let me play once in your garden, to-day you shall come with me to my garden, which is Paradise."(あなたは一度、私をあなたの庭で遊ばせてくれました。今日は、あなたが私の庭に来るのです。私の庭とは、天国のことです)。
1回目に読んだ "My own garden is my own garden" から始まった物語は、「あなたの庭」と「私の庭」という言葉で閉じられます。3回にわたって読んできた表現を思い出しながら、ぜひ最初から最後まで通して読んでみてください。
これまでの記事:(1)子どもたちと高い塀 / (2)春が来ない庭
次回からは、10月8日に公開する名作ダイジェスト『オデュッセイア』第1話の英語を読みます。