Blog · The Selfish Giant
『わがままな大男』の英語を読む(1)子どもたちと高い塀
はじめに
オスカー・ワイルドの『わがままな大男』(The Selfish Giant, 1888年)は、『幸福な王子』と同じ童話集に収められた一編です。子どもたちの遊び場だった庭に、大男が高い塀をめぐらせる。すると、その庭にだけ春が来なくなってしまう――。短い物語ですが、英語には19世紀の書き言葉らしい言い回しがところどころに出てきます。
今週は3回に分けて、物語の流れに沿って表現を読んでいきます。1回目は、大男が旅から帰ってきて、庭に塀を建てるまでの場面です。
1. used to go and play ―「よく遊びに行っていた」
Every afternoon, as they were coming from school, the children used to go and play in the Giant's garden.
意味: 毎日午後になると、子どもたちは学校の帰りに大男の庭へ遊びに行くのが常だった
物語の最初の一文です。used to+動詞の原形は「以前はよく〜していた」という過去の習慣を表します。used to には「今はもう違う」という含みがあるので、英語の読者はこの一文を読んだだけで、「この楽しい日々はいつか終わるのだな」と感じ取ります。
実は、この物語には used to が何度も出てきます。塀ができたあと、子どもたちは used to wander round the high wall(高い塀のまわりをうろうろするのが常だった)。そして物語の終わり近く、年老いた大男は "How I would like to see him!" he used to say.(「あの子にどんなに会いたいことか」と、口ぐせのように言っていた)。同じ形が、場面ごとに違う寂しさを運んできます。
形の似た be used to ...ing(〜に慣れている)と混同しないよう注意しましょう。こちらは be動詞が付き、後ろには名詞か動名詞が続きます。
使い方の例:
- I used to live in Osaka.(以前は大阪に住んでいた)
- There used to be a bookstore on this corner.(この角には昔、本屋があった)
- I'm used to getting up early.(早起きには慣れている)※ be used to は別の意味
2. for his conversation was limited ―「なにしろ話題が少なかったので」
After the seven years were over he had said all that he had to say, for his conversation was limited, and he determined to return to his own castle.
意味: 7年たつと、言うべきことはすべて言ってしまった。なにしろ話題の乏しい大男だったのだ。そこで彼は、自分の城に帰ることにした
大男は、友だちのコーンウォールの人食い鬼(the Cornish ogre)のところに7年も泊まっていました。コーンウォールはイングランド南西部の地方で、昔から巨人の伝説が多いことで知られています。そして帰ってきた理由は、話すことがなくなったから。ワイルドらしい、とぼけたユーモアです。
ここでの for は前置詞ではなく、「というのも〜だからだ」と理由を付け加える接続詞です。because と違って文の頭には置かず、前の文に説明を足す形で使います。改まった書き言葉で、物語や古い文章によく出てきます。「彼の会話のために」と読むと意味が通らなくなるので注意しましょう。
また、determine to ... は「〜しようと決心する」。今なら decide to ... を使うところです。
使い方の例:
- We hurried home, for it was getting dark.(私たちは急いで家に帰った。暗くなってきていたのだ)
- He said nothing, for there was nothing to say.(彼は何も言わなかった。言うべきことが何もなかったのだ)
- She stayed in bed, for she was feeling unwell.(彼女は寝ていた。体調がすぐれなかったのだ)
3. TRESPASSERS WILL BE PROSECUTED ―「立入禁止 違反者は訴えます」
So he built a high wall all round it, and put up a notice-board.
意味: 大男は庭のまわりに高い塀を建て、立て札を立てた。立て札の文句は「無断で立ち入った者は告訴する」
大男が立てた札には、大文字で TRESPASSERS WILL BE PROSECUTED と書かれていました。trespasser は「他人の土地に無断で入る人」(動詞は trespass)、prosecute は「告訴する、起訴する」。will be prosecuted は受け身の未来形で、「告訴されることになる」という警告です。イギリスの私有地の看板で、昔から決まり文句として使われてきた言い方です。
その直前、大男は "My own garden is my own garden,"(おれの庭はおれの庭だ)と言い放ちます。同じ言葉を繰り返しているだけで、何の説明にもなっていません。そして物語は、He was a very selfish Giant.(彼はとてもわがままな大男だった)という短い一文で、大男の人柄を言い切ります。
使い方の例:
- No trespassing.(立入禁止)※現代の看板でよく見る形
- Private property. Keep out.(私有地につき立入禁止)
- Shoplifters will be prosecuted.(万引きは告訴します)※イギリスの店でよく見かける掲示
4. had now nowhere to play ―「もう遊ぶ場所がどこにもなかった」
The poor children had now nowhere to play.
意味: かわいそうに、子どもたちにはもう遊ぶ場所がなかった
nowhere は「どこにも〜ない」という否定の言葉です。not を使わなくても、この一語で文全体が否定になります。have nowhere to+動詞の原形で「〜する場所がどこにもない」。同じ形で have nothing to do(することが何もない)、have no one to talk to(話し相手がいない)とも言えます。
語順にも注目しましょう。had now nowhere と now が動詞のすぐ後ろにあるのは、少し古い書き方です。今なら now had nowhere to play とするのがふつうです。
子どもたちは道で遊ぼうとしますが、道はほこりっぽく、とがった石だらけでした。塀のまわりで彼らは "How happy we were there,"(あそこではなんて楽しかったんだろう)と言い合います。冒頭で庭にいたときの "How happy we are here!"(ここはなんて楽しいんだろう!)が、ここでは過去形に変わっています。現在形と過去形の差だけで、失われたものの大きさが伝わってきます。
使い方の例:
- I have nowhere to go tonight.(今夜は行くところがない)
- There was nowhere to sit, so we stood.(座る場所がどこにもなかったので、私たちは立っていた)
- The cat had nowhere to hide.(猫には隠れる場所がなかった)
おわりに
次回は、塀に閉ざされた庭にやってくる雪・霜・北風・あられたちの英語を読みます。季節や天気が、まるで人のようにふるまう場面です。LITIM では、本文の単語をタップすると意味を確かめながら読み進められます。今回の表現がどんな流れで出てくるのか、ぜひ本文で確かめてみてください。