Blog · The Tell-Tale Heart
『告げ口心臓』の英語を読む(1)「私は狂っていない」
はじめに
『告げ口心臓』(The Tell-Tale Heart)は、エドガー・アラン・ポーが1843年に発表した短編小説です。LITIM ではすでに、同じポーの『赤死病の仮面』を読むことができます。
物語は、ある老人を殺した「私」の告白として語られます。「私」は自分が狂っていないことを証明しようと、どれほど冷静に、どれほど慎重に事を運んだかを、聞き手に向かって熱心に語り続けます。けれども、語れば語るほど、その言葉はどこか常軌を逸していきます。
今週は3回に分けて、物語の流れに沿って表現を読んでいきます。1回目は、「私」が自分は狂っていないと言い張り、老人を殺そうと決めるまでの場面です。
1. why will you say that I am mad? ―「なぜ私が狂っているなどと言うのか」
True!—nervous—very, very dreadfully nervous I had been and am; but why will you say that I am mad?
意味: そうだ! 神経がたかぶっていた。ひどく、ひどく、恐ろしいほどに。今でもそうだ。だが、なぜあなたは私が狂っているなどと言い張るのか
物語の最初の一文です。いきなり True!(そのとおり!)と始まり、まるで誰かに言われたことに答えているかのようです。読者は、語り手と向かい合って話を聞かされている立場に置かれます。
mad はアメリカ英語の口語では「怒っている」の意味でよく使われますが、ここでは「気が狂っている」。この物語のキーワードです。
why will you say ...? の will は未来ではなく、「どうしても〜しようとする」という意志や固執を表します。「なぜあなたは、そう言い張るのか」という苛立ちがこもっています。
nervous ... I had been and am は、ふつうなら I had been and am nervous となるところを、nervous を前に出して強調しています。ダッシュ(—)で言葉が途切れ、同じ語がくり返されるのも、この語り手の特徴です。落ち着いていると言いながら、文はまったく落ち着いていません。
使い方の例:
- He's mad about soccer.(彼はサッカーに夢中だ)※mad about は「〜に夢中」
- The old woman in the story went mad.(物語の老婆は気が狂ってしまった)
- He will keep talking even when no one is listening.(彼は誰も聞いていなくても話し続けようとする)※固執の will
2. Object there was none. ―「目的など、なかった」
Object there was none. Passion there was none. I loved the old man. He had never wronged me. He had never given me insult. For his gold I had no desire.
意味: 目的など、なかった。激しい感情など、なかった。私は老人を愛していた。老人は私にひどいことをしたことは一度もなかった。侮辱されたこともなかった。老人の金がほしいわけでもなかった
ふつうの語順なら There was no object. There was no passion. です。Object と Passion を文の頭に出し、最後に none(何もない)を置くことで、「目的は? ―ない。激情は? ―ない」と、一つずつ打ち消していく響きになります。For his gold I had no desire. も、For his gold を前に出した同じ形です。
object はここでは「物体」ではなく「目的」。passion は「情熱」のほか、怒りや憎しみなどの「激しい感情」を指します。wrong はふつう形容詞ですが、ここでは動詞で「〜に不当なことをする」です。
人を殺す理由は一つもない、と語り手は言い切ります。では、なぜ? その答えが、次の項目です。
使い方の例:
- There is no reason to worry.(心配する理由はない)
- I have no desire to go there.(そこへ行きたいという気持ちはまったくない)
- I'm sorry I wronged you.(あなたにひどいことをしてすみません)
3. my blood ran cold ―「血の凍る思いがした」
Whenever it fell upon me, my blood ran cold; and so by degrees—very gradually—I made up my mind to take the life of the old man, and thus rid myself of the eye forever.
意味: その目が私に向けられるたびに、私は血の凍る思いがした。そうして少しずつ、ごくゆっくりと、私は老人の命を奪おうと心を決めた。そうすれば、あの目から永遠に逃れられる
殺す理由は、老人の目でした。語り手は直前で、それを He had the eye of a vulture(ハゲワシの目をしていた)と言います。膜がかかった、青白い目です。
Whenever は「〜するときはいつでも」。it fell upon me の fall upon は「(視線が)〜に向けられる」。
my blood ran cold は「血が冷たくなった」、つまり「ぞっとした、血の凍る思いがした」という決まった言い方です。日本語の「血の気が引く」に近い感覚です。
by degrees は「少しずつ、徐々に」。すぐあとの very gradually は、その言い換えです。make up one's mind to ~ は「〜しようと決心する」、take the life of ~ は「〜の命を奪う」。rid oneself of ~ は「〜を取り除く、〜から逃れる」です。
「少しずつ」心を決めた、と語り手は言います。衝動ではなく、時間をかけて決めたのだ、と。それが正気の証拠だと、彼は信じているのです。
使い方の例:
- When I heard the scream, my blood ran cold.(悲鳴を聞いたとき、ぞっとした)
- My English is improving by degrees.(私の英語は少しずつ上達している)
- I made up my mind to study abroad.(留学しようと決心した)
4. But you should have seen me. ―「だが、あなたにも見せたかった」
Now this is the point. You fancy me mad. Madmen know nothing. But you should have seen me.
意味: さて、ここが肝心なところだ。あなたは私を狂っていると思っている。狂人は何も分かっていないものだ。だが、あのときの私をあなたにも見せたかった
fancy は「空想する」のほか、古い言い方で「〜だと思う」。fancy me mad で「私を狂っていると思う」です。think me mad と同じ形です。
should have +過去分詞は「〜すべきだったのに(しなかった)」。you should have seen me は、直訳すると「あなたは私を見るべきだった」。そこから「あなたにも見せたかった(見ていれば分かったはずだ)」という意味になります。
このあと語り手は、毎晩真夜中に老人の部屋の扉を開け、1時間かけて頭を差し入れたことを、得意げに語ります。Oh, you would have laughed to see how cunningly I thrust it in!(私がどれほど巧みに頭を差し入れたか、見れば笑ってしまっただろう)。would have +過去分詞は「(もし見ていたら)〜しただろう」です。語り手は、慎重さこそ正気の証だと言いますが、読者にはそれが恐ろしく映ります。
使い方の例:
- You should have seen his face!(彼の顔を見せたかったよ!)
- I should have studied harder.(もっと勉強しておけばよかった)
- You would have loved the party.(あのパーティー、きっと気に入っただろうに)
おわりに
次回は、運命の8日目の夜、語り手がついに老人の目を見て、心臓の音を聞く場面の英語を読みます。同じポーの『赤死病の仮面』の英語表現は、こちらの記事で紹介しています。今回の表現がどんな流れで出てくるのか、ぜひ本文で確かめてみてください。
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