Blog · The Masque of the Red Death
『赤死病の仮面』で読み違えやすい英語表現5選
はじめに
エドガー・アラン・ポーの『赤死病の仮面』(1842年)は、国じゅうに広がる疫病「赤死病」から逃れるため、プロスペロ公が千人の友人と城に閉じこもり、豪華な仮面舞踏会を開く物語です。短い作品ですが、ポーの英語は装飾が多く、古風で重々しい言い回しが次々に出てきます。
今回は物語の流れに沿って、読み違えやすい表現を5つ取り上げます。
1. bid defiance to ―「〜をものともしない」
With such precautions the courtiers might bid defiance to contagion.
意味: これだけ用心すれば、廷臣たちは伝染病をものともしないでいられる(と思われた)
bid defiance to ... は「〜に挑戦状をたたきつける」「〜に屈しない」という古い言い方です。bid は「(あいさつなどを)述べる」、defiance は「反抗、挑戦」。今なら動詞 defy 一語で表すところです。
プロスペロ公たちは城の門を溶接して、出入りの手段を断ちます。外の世界で人々が次々に倒れていくのをよそに、自分たちだけは助かろうとする。この「挑戦」がいかにむなしいものだったかを、読者は最後に知ることになります。
使い方の例:
- The old lighthouse bid defiance to the storm.(古い灯台は、嵐をものともせずに立っていた)
- The small team bid defiance to the giant company.(小さなチームが、巨大企業に真っ向から挑んだ)
- The results defy explanation.(その結果は説明がつかない)※現代英語でふつうに使う defy
2. take care of itself ―「放っておけばいい」
The external world could take care of itself.
意味: 外の世界のことは、外の世界で勝手にやればいい
take care of itself は、直訳すると「自分で自分の面倒を見る」。そこから「放っておいてもどうにかなる」「こちらが気にかける必要はない」という意味になります。
bid defiance to の直後に続く一文です。そっけないほど短いこの文に、城の中の人々の冷たさが凝縮されています。すぐあとには「その間、嘆いたり考えたりするのは愚かなことだった」と続きます。疫病に苦しむ民を見捨てて、彼らは宴に興じるのです。
使い方の例:
- Don't worry about the small details; they'll take care of themselves.(細かいことは気にしなくていい、どうにかなるから)
- Take care of the pennies, and the pounds will take care of themselves.(小銭を大事にすれば、大金は自然にたまる)※英語のことわざ
- This problem won't take care of itself.(この問題は放っておいても解決しない)
3. in the extreme ―「この上なく」
But in the western or black chamber the effect of the fire-light that streamed upon the dark hangings through the blood-tinted panes, was ghastly in the extreme, ...
意味: 西の黒い部屋では、血の色のガラス越しに差し込む火の光が、この上なく不気味だった
in the extreme は形容詞の後ろに置いて、「極めて」「この上なく」と程度を強める言い方です。very ghastly よりも改まった、重々しい響きがあります。
プロスペロ公の城には、青・紫・緑・橙・白・すみれ色、そして黒の七つの部屋が並んでいます。最後の黒い部屋だけは窓ガラスが血のように赤く、ほとんど誰も足を踏み入れようとしません。その部屋には、黒檀の大時計が置かれています。物語の結末は、この部屋で訪れます。
使い方の例:
- The journey was dangerous in the extreme.(その旅は、極めて危険だった)
- His reply was rude in the extreme.(彼の返事は、この上なく失礼だった)
- The view from the top was beautiful in the extreme.(頂上からの眺めは、この上なく美しかった)
4. out-Heroded Herod ―「度を越していた」
In truth the masquerade license of the night was nearly unlimited; but the figure in question had out-Heroded Herod, and gone beyond the bounds of even the prince's indefinite decorum.
意味: その夜の仮装はほとんど何でも許されていたが、問題の人物はそれすらも度を越していた
out-Herod Herod は、シェイクスピアの『ハムレット』から来た表現です。中世の宗教劇では、ユダヤの王ヘロデはわめき散らす暴君として大げさに演じられるのが定番でした。ハムレットは、そういう大げさな演技を「ヘロデ以上にヘロデだ」と批判します。そこから「極端なものをさらに上回る」「度を越す」という意味で使われるようになりました。out- は outdo(しのぐ)や outrun(走り勝つ)と同じ「〜を上回る」という接頭辞です。
真夜中の鐘とともに、舞踏会に一人の見知らぬ客が現れます。何でもありの仮装の夜にあっても、その仮装だけは許されなかった。死体のような仮面に、血しぶきの衣装。赤死病そのものの姿だったのです。
使い方の例:
- The sequel out-Herods Herod in its violence.(その続編は、暴力描写で前作をさらに上回っている)
- Her costume out-Heroded everyone else's at the party.(パーティーでの彼女の衣装は、誰よりも度を越していた)
- He always tries to outdo his brother.(彼はいつも兄に勝とうとする)※同じ out- の働き
5. like a thief in the night ―「こっそりと、不意に」
He had come like a thief in the night.
意味: それは、夜の盗人のようにやって来たのだった
like a thief in the night は、新約聖書から来た表現です。「主の日は、夜の盗人のように来る」という一節に由来し、「予告なしに」「誰にも気づかれずに」という意味で使われます。
物語の最後、人々が謎の客をつかまえてみると、仮面と衣装の中には何もありませんでした。赤死病は、閉ざしたはずの城の中に、すでに入り込んでいたのです。この短い一文のあと、宴の客は一人、また一人と倒れていきます。
使い方の例:
- The illness came like a thief in the night.(その病は、不意に忍び寄ってきた)
- He left like a thief in the night, without saying goodbye.(彼は別れも告げずに、こっそり去っていった)
- Old age comes like a thief in the night.(老いは、気づかないうちにやって来る)
おわりに
『赤死病の仮面』の英語は、一文が長く、古風な言い回しが幾重にも重なっています。それでも、今回の5つのように要となる表現をつかめば、物語の筋はぐっと追いやすくなります。LITIM では、本文の単語をタップすると意味を確かめながら読み進められます。ポーの重厚な英語を、ぜひ本文で味わってみてください。