Blog · The Odyssey - Part 1: The Giant's Cave
『オデュッセイア』第1話の英語を読む(3)「誰でもない」という名前
はじめに
名作ダイジェスト『オデュッセイア』第1話の英語を読むシリーズ、最終回です。前回は、巨人キュクロプスの洞窟に閉じ込められたオデュッセウスが、力ではなく知恵で脱出する道を探しはじめるところまでを読みました。
今回は、オデュッセウスが仕掛けた名前のトリックと、洞窟からの脱出、そして第2話以降の旅を決めてしまう呪いの場面です。
1. My name is Nobody ―「私の名は『誰でもない』」
"My name is Nobody," he said. "Everyone calls me Nobody."
意味: 「私の名はノーバディ。みんな私をノーバディと呼ぶ」と彼は言った
強いぶどう酒ですっかり機嫌のよくなった巨人に名前を聞かれて、オデュッセウスは Nobody と名乗ります。nobody は「誰も〜ない」という意味の言葉です。
その夜、目を突かれた巨人の悲鳴を聞いて、近くに住むほかのキュクロプスたちが駆けつけます。
"Nobody is hurting me!" he shouted. "Nobody!"
巨人は「ノーバディが私を痛めつけている」と訴えているのですが、外の仲間たちには「誰も私を痛めつけていない」としか聞こえません。そこで仲間たちは、"Well, if nobody is hurting you, be quiet,"(誰にもやられていないなら、静かにしろ)と言って帰ってしまいます。本文では、名前の Nobody を大文字で、仲間たちの言う nobody を小文字で書き分けています。
原作のギリシャ語では、オデュッセウスは「ウーティス(Οὖτις)」と名乗ります。これも「誰も〜ない」という意味の言葉で、英語の Nobody は、このことば遊びをそのまま生かした訳です。
nobody には、a nobody の形で「取るに足らない人、無名の人」という意味もあります。
使い方の例:
- Nobody knows the answer.(誰も答えを知らない)
- Nobody is perfect.(完璧な人なんていない)
- He was a nobody before he became famous.(有名になる前、彼は無名の存在だった)
2. came running ―「駆けつけてきた」
Other Cyclopes lived in caves nearby, and they came running.
意味: 近くの洞窟にはほかのキュクロプスたちが住んでいて、彼らが走ってやってきた
come+動詞の ing 形で、「〜しながら来る」という意味になります。come running は「走ってくる、駆けつける」。ほかにも come flying(飛んでくる)、come rushing(押し寄せてくる)のように使います。
Cyclopes は Cyclops の複数形です。ふつうの -s ではなく、ギリシャ語・ラテン語の複数形の形を残した、少し変わった語です。
come running は、「困ったときにはすぐ駆けつける」という比喩としてもよく使われます。
使い方の例:
- The children came running when they heard the bell.(ベルが鳴ると、子どもたちが走ってやってきた)
- She came running out of the house.(彼女は家から走り出てきた)
- If you ever need help, I'll come running.(困ったときは、いつでも駆けつけるよ)
3. could not stay quiet ―「黙っていられなかった」
They ran to the ship and rowed away. But Odysseus could not stay quiet.
意味: 彼らは船へ走り、こぎ出した。だが、オデュッセウスは黙っていられなかった
stay+形容詞で「〜のままでいる」。stay quiet は「静かにしている、黙っている」です。stay calm(落ち着いている)、stay awake(起きている)のように、いろいろな形容詞と組み合わせて使います。
羊のお腹の下にしがみついて洞窟を抜け出し、ようやく船に戻ったオデュッセウス。黙って逃げれば、それで終わりでした。ところが彼は巨人に向かって、"If anyone asks who took your eye, tell them it was Odysseus, king of Ithaca!"(誰にやられたか聞かれたら、イタケーの王オデュッセウスだと言え)と、本当の名前を叫んでしまいます。
知恵で巨人に勝った英雄が、最後に自慢したい気持ちを抑えられなかった。この could not stay quiet の一文が、このあと10年続く苦しい旅の始まりになります。
使い方の例:
- Stay calm and listen to me.(落ち着いて、私の話を聞いて)
- I couldn't stay awake during the movie.(映画のあいだ、起きていられなかった)
- Please stay quiet in the library.(図書館では静かにしてください)
4. never let Odysseus reach his home ―「オデュッセウスを決して故郷に帰らせないでください」
"Father," he cried, "never let Odysseus reach his home. And if he does get home, let him arrive late, alone, and in trouble."
意味: 「父上、オデュッセウスを決して故郷に帰らせないでください。もし帰り着いたとしても、遅れて、一人きりで、災いのただ中に帰らせてください」と巨人は叫んだ
巨人の父は、海の神ポセイドンでした。let+人+動詞の原形は「〜に…させる、…するのを許す」。ここでは神への祈りなので、「〜させてください」という願いの意味になります。never let ... は「決して〜させない」です。
if he does get home の does にも注目しましょう。これは疑問文や否定文の do ではなく、動詞を強める do です。「もし(万一)本当に帰り着いたとしても」という気持ちが込められています。
late, alone, and in trouble(遅れて、一人きりで、災いの中で)という三つの呪いの言葉は、第2話から第5話まで、オデュッセウスの旅にずっとついてまわることになります。
使い方の例:
- Let me help you with that bag.(そのかばん、持つのを手伝わせて)
- My parents never let me stay up late.(両親は私に夜ふかしを決して許さなかった)
- Please don't let him get hurt.(どうか彼がけがをしませんように)
おわりに
第1話は、Poseidon heard his son. From that day on, the sea itself was Odysseus's enemy.(ポセイドンは息子の願いを聞き入れた。その日から、海そのものがオデュッセウスの敵になった)という一文で終わります。from that day on は「その日からずっと」。ここから、長い旅が本当の意味で始まります。
第2話「魔女の島」は、10月15日(木)に公開します。