Blog · The Happy Prince
『幸福な王子』で読み違えやすい英語表現5選
はじめに
オスカー・ワイルドの『幸福な王子』(1888年)は、町の広場に立つ金の像と、エジプトへ渡りそびれた一羽のツバメの物語です。童話として書かれていますが、英語には19世紀の書き言葉らしい古風な言い回しが多く、単語を知っていても意味がつかみにくい文がところどころに出てきます。
今回は物語の流れに沿って、読み違えやすい表現を5つ取り上げます。
1. lest people should think ―「〜と思われないように」
"only not quite so useful," he added, fearing lest people should think him unpractical, which he really was not.
意味: 実用的でない人間だと思われないように(と心配して)
像を「風見鶏のように美しい」と褒めた市会議員が、「ただ、風見鶏ほど役には立たないが」と慌てて付け足す場面です。
lest は「〜しないように」「〜するといけないから」という意味の接続詞で、後ろには should+動詞の原形が続きます。fear lest ... で「〜ではないかと恐れる」。現代英語では so that ... not や in case を使うのがふつうですが、lest は今も改まった書き言葉で見かけます。
この一文の面白さは、最後の which he really was not(実際にはそんな人ではなかったのだが)にあります。芸術がわかる人だと思われたい。でも、役に立たない人だとも思われたくない。ワイルドは議員の見栄を、一文で皮肉っています。
使い方の例:
- She wrote down the date lest she should forget it.(忘れないように、彼女は日付を書き留めた)
- Speak quietly lest you wake the baby.(赤ちゃんを起こさないように、静かに話して)
- He hurried, fearing lest he miss the last train.(終電を逃すのではないかと、彼は急いだ)
※ 現代では、2つ目と3つ目のように should を省いて動詞の原形を続ける形もよく使われます。
2. crying for the moon ―「無理なものをねだる」
"Why can't you be like the Happy Prince?" asked a sensible mother of her little boy who was crying for the moon.
意味: 手に入らないものを欲しがって泣いている
文字どおりなら「月が欲しいと泣いている」ですが、cry for the moon は「できないこと、手に入らないものを求める」という決まった言い方です。今のイギリス英語でも使われます。
母親は続けて、「幸福な王子は何かを欲しがって泣いたりしないのに」と言います。ところが読者はすぐあとで、その王子が夜ごと涙を流していることを知ります。子どもをたしなめる何気ない一言が、物語の皮肉な伏線になっているのです。
使い方の例:
- It's no use crying for the moon.(無い物ねだりをしても仕方がない)
- Asking for a big raise and a four-day week at the same time is crying for the moon.(大幅な昇給と週4日勤務を同時に求めるのは、無理な注文だ)
- Stop crying for the moon and be happy with what you have.(無い物ねだりはやめて、今あるもので満足しなさい)
3. trifling with me ―「私をもてあそんでいた」
"You have been trifling with me," he cried.
意味: 私の気持ちをもてあそんでいたんだね
名詞の trifle は「ささいなこと、つまらないもの」。動詞の trifle with ... になると、「〜を軽く扱う」「〜をもてあそぶ」という意味になります。人の気持ちについて使うと、「本気でもないのに気を持たせる」というニュアンスです。
ツバメは夏のあいだ、川辺の葦(アシ)に恋をします。ところが一緒に旅立とうと誘っても、葦は首を振るばかり。ふられたツバメが言い放つのがこの一言です。現在完了進行形の have been trifling が、「ずっとそうだったんだな」という恨みを表しています。のちに王子のために命をかけるツバメの、軽やかな最初の姿が見える場面です。
使い方の例:
- Don't trifle with her feelings.(彼女の気持ちをもてあそんではいけない)
- He is not a man to be trifled with.(彼は甘く見ていい相手ではない)
- You shouldn't trifle with your health.(健康を軽く考えてはいけない)
4. cannot choose but weep ―「泣かずにはいられない」
...and though my heart is made of lead yet I cannot choose but weep.
意味: 私の心臓は鉛でできているけれど、それでも泣かずにはいられない
cannot choose but+動詞の原形は、「〜するしかない」「〜せずにはいられない」という古い言い方です。直訳すれば「〜する以外を選べない」。現代英語なら cannot help weeping や cannot help but weep と言うところです。
生きていた頃の王子は、悲しみが入り込めない宮殿で、外の世界を何も知らずに暮らしていました。死んで高い柱の上に置かれたことで、はじめて町の貧しさと悲惨さが見えるようになったのです。though ... yet は「〜だけれども、それでも」と逆接を重ねる古い形で、鉛の心臓という冷たいものと、止められない涙の対比を際立たせています。
使い方の例: cannot choose but は今ではほとんど使われないので、同じ意味の現代の言い方で例を挙げます。
- I couldn't help laughing at his joke.(彼の冗談に、笑わずにはいられなかった)
- She couldn't help but cry when she read the letter.(その手紙を読んで、彼女は泣かずにはいられなかった)
- He could not choose but obey.(彼は従うしかなかった)※古い小説で見かける形
5. little better than a beggar ―「物乞いも同然だ」
"...in fact, he is little better than a beggar!"
意味: 実際、物乞いと大して変わらないじゃないか
ここでの little は「少し」ではありません。a がつかない little は「ほとんど〜ない」という否定の意味になります。little better than ... は「〜よりほとんど良くない」、つまり「〜と大差ない」「〜も同然だ」。a little better than(〜より少しまし)と読むと意味が逆になるので注意が必要です。
宝石も金箔も、すべて貧しい人に配り終えた王子の像を見て、市長が言う台詞です。議員たちは口をそろえて同じ言葉を繰り返し、像を溶かすことに決めます。王子がなぜみすぼらしくなったのか、町の誰も知りません。この落差が、物語の最後に神が選ぶ「町でいちばん尊いもの」へとつながっていきます。
使い方の例:
- The pay was little better than nothing.(給料はないも同然だった)
- The hotel room was little better than a closet.(そのホテルの部屋は、物置と大差なかった)
- This plan is a little better than the last one.(この計画は前のものより少しましだ)※ a が付くと「少しまし」という意味になる比較例
おわりに
5つの表現は、どれも単語だけでなく場面ごと覚えておくと忘れにくいものばかりです。LITIM では、本文の単語をタップすると意味を確かめながら読み進められます。今回の表現がどんな流れの中で出てくるのか、ぜひ本文で確かめてみてください。