Blog · The Gift of the Magi
『賢者の贈り物』で読み違えやすい英語表現5選
はじめに
O・ヘンリーの『賢者の贈り物』(1905年)は、貧しい若い夫婦デラとジムが、クリスマスに互いへの贈り物を買うため、それぞれいちばん大切なものを手放す物語です。結末の「すれ違い」が有名な作品ですが、英語は軽妙でユーモアにあふれ、語り手が読者に話しかけるような口調で進みます。
今回は物語の流れに沿って、読み違えやすい表現を5つ取り上げます。
1. doesn't go far ―「(お金が)すぐになくなる」
Twenty dollars a week doesn't go far.
意味: 週20ドルでは、たいしたことはできない
go far は、お金について使うと「長くもつ」「多くのものが買える」という意味になります。否定の doesn't go far で「すぐに底をつく」「足りない」。反対に、go a long way は「大いに役立つ」「長くもつ」です。
クリスマスの前日、デラの手元にはたった1ドル87セント。何か月もこつこつ貯めてきた結果がこれでした。語り手は「出費はいつも計算より多くなるものだ」とそっけなく付け加えます。夫婦の暮らしの苦しさが、短い一文で伝わってきます。
使い方の例:
- A thousand yen doesn't go far in Tokyo.(東京では、千円ではたいしたものは買えない)
- My salary doesn't go as far as it used to.(給料で買えるものが、昔より少なくなった)
- A little kindness goes a long way.(ちょっとした親切が、大きな力になる)※反対の go a long way
2. Had the queen of Sheba lived ―「もしシバの女王が住んでいたら」
Had the queen of Sheba lived in the flat across the airshaft, Della would have let her hair hang out the window some day to dry just to depreciate Her Majesty's jewels and gifts.
意味: もしシバの女王が向かいの部屋に住んでいたら、デラは女王の宝石をかすませるためだけに、髪を窓の外に垂らして乾かしたことだろう
文頭の Had the queen of Sheba lived は、If the queen of Sheba had lived の if を省き、had を前に出した形です。仮定法過去完了で、「もし〜だったなら」という意味になります。書き言葉でよく使われる、少し改まった形です。
夫婦には、自慢の宝物が二つありました。ジムの祖父の代から伝わる金時計と、デラの美しい髪です。語り手は、栄華で知られるシバの女王やソロモン王まで引き合いに出して、その自慢ぶりを大げさに描きます。この二つの宝物が、物語の結末で大きな意味を持つことになります。
使い方の例:
- Had I known about the traffic, I would have left earlier.(渋滞のことを知っていたら、もっと早く出たのに)
- Had she asked me, I would have helped her.(彼女に頼まれていたら、手伝ったのに)
- Should you have any questions, please contact us.(ご不明な点がございましたら、お問い合わせください)※同じく if を省いた形
3. collected herself ―「気持ちを落ち着けた」
One flight up Della ran, and collected herself, panting.
意味: デラは階段を一つ駆け上がり、息を切らしながら気持ちを落ち着けた
collect は「集める」。collect oneself で「(散らばった)気持ちをかき集める」、つまり「落ち着きを取り戻す」という意味になります。似た言い方に pull oneself together があります。
デラが向かったのは、「マダム・ソフロニー。髪製品いろいろ」という看板の店です。自慢の髪を売って、ジムへの贈り物のお金にするためでした。店の前で一瞬立ち止まり、息を整えて心を決めるデラの姿が、この一文に込められています。
使い方の例:
- She took a deep breath and collected herself before going on stage.(彼女は深呼吸して、気持ちを落ち着けてから舞台に上がった)
- Give me a minute to collect myself.(少し気持ちを落ち着ける時間をちょうだい)
- He was upset, but he quickly pulled himself together.(彼は動揺していたが、すぐに立ち直った)※似た言い方の pull oneself together
4. on the sly ―「こっそりと」
Grand as the watch was, he sometimes looked at it on the sly on account of the old leather strap that he used in place of a chain.
意味: 立派な時計なのに、鎖の代わりに古い革ひもを付けていたせいで、ジムは人目を忍んで時計を見ることがあった
on the sly は「こっそりと」「人に見られないように」というくだけた言い方です。secretly とほぼ同じ意味ですが、「ちょっと後ろめたい」というニュアンスを含みます。
デラは髪を売った20ドルで、ジムの金時計にふさわしいプラチナの鎖を見つけます。代金は21ドル。この鎖があれば、ジムはもう人前で時計を出すのをためらわなくていい。デラの贈り物の意味が、この一文でよくわかります。
使い方の例:
- He used to smoke on the sly.(彼は昔、隠れてたばこを吸っていた)
- She has been learning French on the sly to surprise him.(彼女は彼を驚かせようと、こっそりフランス語を習っている)
- They met on the sly after work.(二人は仕事のあと、人目を忍んで会っていた)
5. you had me going ―「すっかり動揺させられた」
"But if you'll unwrap that package you may see why you had me going a while at first."
意味: でも、その包みを開けてみれば、どうして僕が最初しばらく呆然としていたのかわかるよ
have + 人 + going は「人をすっかりその気にさせる」「人を惑わせる、動揺させる」という口語表現です。今の英語では、冗談にまんまと引っかかったときに You had me going there!(すっかりだまされたよ)のようによく使われます。
髪を短くしたデラを見て、ジムは言葉を失い、立ち尽くします。怒ったのでも、がっかりしたのでもありませんでした。ジムが差し出した包みの中には、デラが前から欲しがっていた、べっこうの櫛のセットが入っていたのです。そしてジムは、その櫛を買うために金時計を売っていました。
使い方の例:
- You had me going there for a second!(一瞬、すっかりだまされたよ)
- That movie really had me going until the very end.(あの映画には、最後まですっかりハラハラさせられた)
- Wow, you really had me going with that story.(その話には、すっかりだまされたよ)
おわりに
『賢者の贈り物』の英語は、語り手の皮肉やユーモアと、夫婦の真剣な思いが交互に現れます。今回の5つの表現も、どちらの調子で語られているかを意識すると、場面の味わいがぐっと深まります。LITIM では、本文の単語をタップすると意味を確かめながら読み進められます。ぜひ本文で、O・ヘンリーの語り口を味わってみてください。