Blog · The Monkey's Paw
『猿の手』で読み違えやすい英語表現5選
はじめに
W・W・ジェイコブズの『猿の手』(1902年)は、三つの願いをかなえる干からびた猿の手をめぐる怪談です。前半は暖炉のそばの家族の団らん、後半は息子を失った老夫婦の悲しみと恐怖。短い作品ですが、場面ごとに英語の温度ががらりと変わります。
今回は物語の流れに沿って、読み違えやすい表現を5つ取り上げます。
1. to their sorrow ―「後で悲しむことになって」
He wanted to show that fate ruled people's lives, and that those who interfered with it did so to their sorrow.
意味: 運命に手を出した者は、悲しい目にあう(ということを示したかった)
to one's sorrow は「〜にとって悲しいことに」「その結果〜は悲しむことになった」という意味です。to my surprise(驚いたことに)と同じ形で、to+感情を表す名詞で「結果としてその感情を味わう」ことを表します。did so は interfered with it を受けています。
軍曹長が、猿の手に呪いをかけた老行者の意図を語る場面です。この一文が、物語全体の予告になっています。運命を願いで曲げようとすれば、必ず代償を払う。ホワイト一家は、まさにそのとおりの道をたどることになります。
使い方の例:
- He ignored the doctor's advice, to his sorrow.(彼は医者の忠告を無視し、あとで悔やむことになった)
- To my great sorrow, the old bookshop closed last year.(とても悲しいことに、あの古い本屋は去年閉店した)
- Much to her surprise, the plan worked.(彼女が驚いたことに、計画はうまくいった)※同じ形の「to+感情の名詞」
2. ill-gotten gains ―「不正に手に入れた金」
"...and something horrible squatting up on top of the wardrobe watching you as you pocket your ill-gotten gains."
意味: あなたが不正に手に入れた金をポケットにしまうのを(何か恐ろしいものが見ている)
ill-gotten は「悪い方法で手に入れた」、gains は「もうけ」。ill-gotten gains で「不正な利益、悪銭」という決まった言い回しです。ill は「悪く」という意味の副詞で、ill-treated(虐待された)や ill-advised(軽率な)も同じ作りです。
父親が猿の手に200ポンドを願った夜、息子のハーバートが寝る前にからかって言う台詞です。「ベッドの上に金の袋があって、衣装だんすの上から何か恐ろしいものが見ているよ」。冗談のつもりの一言でした。ところが翌日、その200ポンドはハーバートの命と引き換えに届くことになります。
使い方の例:
- The gang tried to hide their ill-gotten gains overseas.(その一味は、不正に得た金を海外に隠そうとした)
- He was forced to pay back all his ill-gotten gains.(彼は不正に得た金をすべて返済させられた)
- Ill-gotten gains seldom prosper.(悪銭身につかず)※英語のことわざ
3. dawned upon her ―「(意味に)はっと気づいた」
She broke off suddenly as the sinister meaning of the assurance dawned upon her and she saw the awful confirmation of her fears in the other's averted face.
意味: その言葉の不吉な意味に、彼女ははっと気づいた
dawn は「夜が明ける」。dawn on(dawn upon)+人で、「(考えや事実が)人にだんだんわかってくる」という意味になります。夜明けの光が少しずつ差し込むように、意味が頭の中に広がっていくイメージです。主語が「気づく内容」で、気づく人は on の後ろに来る点に注意しましょう。
ハーバートの勤め先から来た男は、「ひどいけがをしました。でも、もう痛みは感じていません」と告げます。「ああ、よかった」と神に感謝しかけた母親は、途中で言葉を止めます。痛みを感じていないのは、もう生きていないから。安心させるための言葉(assurance)が、一瞬で最悪の知らせに変わる場面です。
使い方の例:
- It suddenly dawned on me that I had left my keys at home.(鍵を家に置いてきたことに、突然気づいた)
- It finally dawned on him that she was not joking.(彼女が冗談を言っているのではないと、彼はようやく気づいた)
- The truth slowly dawned on the detective.(真相が、刑事にだんだん見えてきた)
4. gave place to ―「〜に取って代わられた」
But the days passed, and expectation gave place to resignation—the hopeless resignation of the old, sometimes miscalled, apathy.
意味: 日がたつにつれて、期待はあきらめに変わった
A gives place to B は「A が B に場所を譲る」、つまり「A が B に取って代わられる」「A が B に変わる」という意味です。give way to とほぼ同じ意味の、やや改まった言い方です。
葬儀のあと、老夫婦は「何か別のことが起きて、この重荷を軽くしてくれるのでは」と、どこかで待ち続けていました。その期待が、日を追うごとにあきらめへと変わっていきます。作者はそれを「ときに無気力と誤って呼ばれる、老人の望みのないあきらめ」と言い添えています。この静かなあきらめが、やがて母親の狂おしい思いつき、つまり二つ目の願いへと反転していきます。
使い方の例:
- In spring, the snow gave place to green fields.(春になると、雪景色は緑の野原に変わった)
- His anger gradually gave place to sadness.(彼の怒りは、しだいに悲しみに変わった)
- Old wooden houses have given way to tall apartment buildings.(古い木造の家々は、高いマンションに取って代わられた)※同じ意味の give way to
5. screwing up his courage ―「勇気を振り絞って」
The darkness was oppressive, and after lying for some time screwing up his courage, he took the box of matches, and striking one, went downstairs for a candle.
意味: しばらく横になったまま勇気を振り絞ってから、(マッチを手に取った)
screw up は「(ねじを)きつく締める」。screw up one's courage で「勇気を奮い起こす」という決まった言い方になります。緩んだ気持ちをねじで締め上げて、ようやく動き出すような感覚です。なお、screw up だけだと口語で「しくじる」という意味もあるので、後ろに courage が続くかどうかで見分けます。
二つ目の願いのあと、何も起きないまま、ろうそくは燃え尽きます。父親はほっとしてベッドに戻りますが、暗闇の重苦しさに耐えきれず、勇気を振り絞って階段を下ります。その足元で、玄関を叩くかすかな音が聞こえ始めます。物語でいちばん恐ろしい場面の、直前の一文です。
使い方の例:
- She screwed up her courage and asked him out.(彼女は勇気を振り絞って、彼をデートに誘った)
- I finally screwed up the courage to quit my job.(ようやく勇気を出して、仕事を辞めた)
- Don't screw up this chance.(このチャンスを台無しにするな)※courage が続かない screw up は「しくじる」
おわりに
『猿の手』の英語は、前半の軽い冗談と後半の張りつめた描写で、同じ作品とは思えないほど表情が変わります。今回の5つの表現も、どんな場面で、どんな温度で使われているかに注目すると、ぐっと記憶に残ります。LITIM では、本文の単語をタップすると意味を確かめながら読み進められます。ぜひ本文で、物語の流れの中で確かめてみてください。