Blog · The Little Match Girl
『マッチ売りの少女』で読み違えやすい英語表現5選
はじめに
アンデルセンの『マッチ売りの少女』(1845年)は、大みそかの夜、雪の降る町でマッチを売り歩く貧しい少女の物語です。寒さに耐えきれずマッチを擦るたびに、少女は温かいストーブや、ごちそうや、大好きだったおばあさんの幻を見ます。LITIM で読めるのは、19世紀の H・W・ダルケン系の英訳で、語順が今の英語と違う文や、古風な言い回しが多く出てきます。
今回は物語の流れに沿って、読み違えやすい表現を5つ取り上げます。
1. what was the good of that ―「それが何の役に立っただろう」
When she left home she had slippers on, it is true; but what was the good of that?
意味: 家を出るとき、たしかにスリッパははいていた。でも、それが何の役に立っただろう
What is the good of ...? は、「〜が何の役に立つのか」「〜しても無駄だ」という反語の言い方です。答えを求める質問ではなく、「何の役にも立たない」という気持ちを表しています。What's the use of ...? もほぼ同じ意味です。
少女がはいていたのは、母親のお下がりの大きすぎるスリッパでした。馬車をよけて通りを渡ろうとしたとき、片方はどこかへ消え、もう片方は男の子に持ち去られてしまいます。少女は、はだしで雪の中を歩くしかありませんでした。
使い方の例:
- What's the good of worrying about it now?(今さら心配して何になるの)
- What is the good of money if you have no time to enjoy it?(楽しむ時間がないなら、お金が何の役に立つだろう)
- It's no use crying over spilt milk.(こぼれたミルクを嘆いても仕方がない)※英語のことわざ。似た意味の no use
2. the whole livelong day ―「朝から晩までずっと」
Nobody had bought anything of her the whole livelong day; no one had given her a single farthing.
意味: 朝から晩まで、誰ひとりマッチを買ってくれず、1ファージングすらくれなかった
livelong は「(時間が)長い長い、まるまるの」という意味の古風な形容詞で、the whole livelong day で「まる一日ずっと」「朝から晩まで」を強調します。退屈さやつらさを込めて、時間の長さを嘆くときによく使われます。farthing は、当時のイギリスのいちばん小さな銅貨です。
エプロンいっぱいのマッチを抱えて歩き続けたのに、一本も売れない。お金を持たずに帰れば、父親にぶたれる。家に帰ることもできない少女の、長く寒い一日がこの一文に込められています。
使い方の例:
- It rained the whole livelong day.(一日じゅう、雨が降り続いた)
- The baby cried all the livelong night.(赤ちゃんは一晩じゅう泣き続けた)
- I've been waiting all day long.(一日じゅう待っていたんだよ)※今の英語でふつうの言い方
3. did not venture ―「思い切って〜する勇気がなかった」
Her little feet she had drawn close up to her, but she grew colder and colder, and to go home she did not venture, ...
意味: 小さな足を体に引き寄せても、ますます寒くなるばかり。それでも、家に帰る勇気はなかった
venture は「思い切って〜する、危険を承知でやってみる」。did not venture to go home で「家に帰る勇気がなかった」という意味です。この文では to go home が文の前に出て、to go home she did not venture という語順になっています。強調したい部分を前に出す、古い英語によく見られる形です。Her little feet she had drawn close up to her も、同じように目的語が前に出ています。
二軒の家のあいだの隅にうずくまる少女。家に帰っても、屋根のすき間から風が吹き込み、外と同じように寒いのです。帰れない理由と帰っても仕方がない理由が、淡々と並べられます。
使い方の例:
- She didn't venture to ask him any more questions.(彼女は、それ以上彼に質問する勇気がなかった)
- He ventured out into the storm.(彼は嵐の中へ、思い切って出かけていった)
- Nothing ventured, nothing gained.(虎穴に入らずんば虎子を得ず)※英語のことわざ
4. a world of comfort ―「計り知れない慰め」
Oh! a match might afford her a world of comfort, if she only dared take a single one out of the bundle, ...
意味: ああ、束から一本だけでも抜き取る勇気があれば、マッチはどれほど心を慰めてくれることだろう
a world of ... は「非常に多くの〜」「計り知れないほどの〜」という強調の言い方です。今の英語では、a world of difference(大きな違い)という形でよく使われます。afford は「〜を与える、もたらす」という意味で、「(お金に)余裕がある」ではありません。
売り物のマッチに手をつけることは、少女にとって大きな決断でした。一本擦ると、目の前に真鍮の飾りのついた大きな鉄のストーブが現れます。二本目ではごちそうのガチョウ、三本目では大きなクリスマスツリー。どれも、火が消えると同時に消えてしまいます。
使い方の例:
- A good night's sleep makes a world of difference.(ぐっすり眠れば、全然違う)
- Her kind words gave me a world of comfort.(彼女の優しい言葉に、私は大いに慰められた)
- This medicine afforded him some relief from the pain.(この薬で、彼の痛みはいくらか和らいだ)※「与える」の afford
5. never formerly had the grandmother been ―「おばあさんがこれほど〜だったことはない」
And the matches gave such a brilliant light that it was brighter than at noon-day: never formerly had the grandmother been so beautiful and so tall.
意味: マッチはまぶしく輝き、真昼よりも明るくなった。おばあさんがこれほど美しく、これほど大きく見えたことは、これまで一度もなかった
never(否定の言葉)が文の先頭に来ると、後ろの語順が疑問文と同じ形になります。The grandmother had never been ... が、Never had the grandmother been ... に変わるのです。強い感動や驚きを表すときに使われる形で、今の英語でも Never have I seen ...(これほどの〜は見たことがない)のようによく使われます。formerly は「以前に」という意味です。
幻の中に、少女をただ一人愛してくれた亡きおばあさんが現れます。「マッチが燃え尽きたら、おばあさんも行ってしまう」。少女は束ごとマッチを擦り、おばあさんを引き止めようとします。そして、二人は光の中を高く高く昇っていきました。翌朝、人々が見つけたのは、微笑みを浮かべたまま冷たくなっていた少女の姿でした。
使い方の例:
- Never have I seen such a beautiful sunset.(これほど美しい夕日は見たことがない)
- Never had she felt so happy.(彼女はこれほど幸せに感じたことはなかった)
- Rarely do we get a chance like this.(こんな機会はめったにない)※rarely も同じ語順になる
おわりに
『マッチ売りの少女』の英訳は、語順を入れ替えて言葉を強める古い書き方が多く、最初は読みにくく感じるかもしれません。それでも、語順の仕組みを知っておくと、少女の心の動きが一文ごとに伝わってきます。LITIM では、本文の単語をタップすると意味を確かめながら読み進められます。ぜひ本文で、アンデルセンの物語を味わってみてください。