銀河鉄道の夜 · Part 1 of 3

「では、みなさん。川かわだと言いわれたり、乳ちちの流ながれたあとだと言いわれたりしてきた、このぼんやりと白しろいものは、本当ほんとうは何なんでしょう。」先生せんせいは、黒板こくばんにかけた大おおきな星ほしの図ずの、白しろい帯おびのような所ところを指さして、みんなに聞ききました。

カムパネルラが手てをあげました。ジョバンニも手てをあげようとして、急いそいでやめました。あれはみんな星ほしだと、いつか雑誌ざっしで読よんだのです。けれども、このごろのジョバンニは、朝あさも午後ごごも仕事しごとがつらくて、教室きょうしつではいつも眠ねむく、何なにもよくわからないような気きがするのでした。

「ジョバンニさん。あなたはわかっているのでしょう。」先生せんせいに言いわれて立たち上あがりましたが、はっきり答こたえることができません。前まえの席せきのザネリがふり返かえって、くすっと笑わらいました。ジョバンニは真まっ赤かになりました。次つぎに聞きかれたカムパネルラも、立たったまま、やはり答こたえませんでした。

カムパネルラが知しらないはずはありません。二人ふたりは前まえに、カムパネルラのお父とうさんの本ほんで、銀河ぎんがの写真しゃしんをいっしょに見みたのです。ぼくをかわいそうに思おもって、わざと答こたえなかったのだ。そう考かんがえると、ジョバンニの目めは涙なみだでいっぱいになりました。

先生せんせいは言いいました。「このぼんやりと白しろい銀河ぎんがは、大おおきな望遠鏡ぼうえんきょうで見みると、たくさんの小ちいさな星ほしなのです。今日きょうは銀河ぎんがのお祭まつりですから、みなさんは外そとへ出でて、空そらをよくごらんなさい。」

学校がっこうが終おわると、同おなじ組くみの子こどもたちは、カムパネルラを囲かこんで、今夜こんやの星祭ほしまつりの相談そうだんをしていました。川かわへ流ながす、からすうりのあかりを作つくるのです。けれどもジョバンニは、一人ひとりで門もんを出でて、町まちの印刷所いんさつじょへ行いきました。そこで、小ちいさな金属きんぞくの字じを一ひとつ一ひとつ拾ひろう仕事しごとをしているのです。六時ろくじすぎに仕事しごとが終おわると、小ちいさな銀貨ぎんかを一ひとつもらいました。ジョバンニはパンと角砂糖かくざとうを買かって、走はしって家いえへ帰かえりました。

家いえでは、病気びょうきのお母かあさんが寝ねていました。「お母かあさん、角砂糖かくざとうを買かってきたよ。牛乳ぎゅうにゅうに入いれてあげようと思おもって。」けれども、今日きょうの牛乳ぎゅうにゅうはまだ届とどいていませんでした。

お父とうさんは、北きたの海うみへ漁りょうに出でているはずですが、長ながい間あいだ帰かえってきません。悪わるいことをしてつかまっているのだ、と言いう人ひともいます。「お父とうさんは、きっともうすぐ帰かえってくるよ。そんな悪わるいことをしたはずがないんだ。」お父とうさんは、この次つぎはラッコの上着うわぎを持もってくると言いっていました。それで学校がっこうの子こどもたちは、ジョバンニをからかうのです。「でも、カムパネルラは決けっして言いわないよ。」ジョバンニは、牛乳ぎゅうにゅうを取とりに行いって、お祭まつりも見みてくると言いって、家いえを出でました。

町まちは、木きの枝えだやあかりで、すっかりきれいに飾かざられていました。子こどもたちは、新あたらしい着物きものを着きて、口笛くちぶえを吹ふいたり、花火はなびをしたりして、楽たのしそうに遊あそんでいます。けれどもジョバンニは、下したを向むいて、牛乳屋ぎゅうにゅうやへ急いそぎました。牛乳屋ぎゅうにゅうやでは、年としをとった女おんなの人ひとが出でてきて、「今いまはだれもいないので、わかりません。もう少すこしたってから来きてください」と言いいました。

町まちの角かどで、からすうりのあかりを持もった、同おなじ組くみの子こどもたちに会あいました。「ジョバンニ、ラッコの上着うわぎが来くるよ。」ザネリが叫さけぶと、みんなも続つづいて叫さけびました。その中なかに、カムパネルラもいました。カムパネルラは、気きの毒どくそうに、だまって少すこし笑わらって、ジョバンニの方ほうを見みていました。ジョバンニは、その目めから逃にげるように通とおりすぎました。そして、何なんとも言いえずさびしくなって、町まちの外そとの黒くろい丘おかの方ほうへ走はしり出だしました。

丘おかの上うえには、「天気輪てんきりんの柱はしら」が立たっていました。ジョバンニはその下したまで来くると、冷つめたい草くさの上うえに体からだを投なげ出だしました。空そらには天あまの川がわが、南みなみから北きたへ白しろく流ながれています。町まちのあかりは、まるで海うみの底そこのお宮みやのように見みえ、子こどもたちの歌うたう声こえが、かすかに聞きこえてきました。

遠とおくの野原のはらを、汽車きしゃが走はしっていきます。その小ちいさな窓まどの中なかで、たくさんの人ひとが、りんごをむいたり、笑わらったりしているのだと考かんがえると、ジョバンニは何なんとも言いえず悲かなしくなって、また空そらを見み上あげました。けれども、いくら見みていても、空そらは先生せんせいの言いったような、何なにもない冷つめたい所ところだとは思おもえませんでした。見みれば見みるほど、小ちいさな林はやしや牧場まきばのある野原のはらのように見みえるのです。

すると、どこかで、「銀河ぎんがステーション、銀河ぎんがステーション」という、ふしぎな声こえがしました。急きゅうに目めの前まえがぱっと明あかるくなって、ジョバンニは何度なんども目めをこすりました。

気きがつくと、ジョバンニは、ごとごと走はしる小ちいさな汽車きしゃに乗のっていました。黄色きいろい電灯でんとうのならんだ席せきで、窓まどから外そとを見みながら座すわっていたのです。すぐ前まえの席せきには、ぬれたように真まっ黒くろな上着うわぎを着きた、背せの高たかい子こどもがいました。その子こが窓まどから頭あたまを引ひっこめて、こちらを見みました。それは、カムパネルラでした。

「みんなはね、ずいぶん走はしったけれども、遅おくれてしまったよ。ザネリもね、ずいぶん走はしったけれども、追おいつかなかった。」「どこかで待まっていようか。」「ザネリはもう帰かえったよ。お父とうさんが迎むかえに来きたんだ。」そう言いいながら、カムパネルラは、なぜか少すこし青あおい顔かおをして、どこか苦くるしそうでした。ジョバンニも、何なにかをどこかに忘わすれてきたような、おかしな気き持もちがして、だまってしまいました。

けれどもカムパネルラは、すぐに元気げんきになって、円まるい板いたのような黒くろい地図ちずを見みせてくれました。天あまの川がわの左ひだりの岸きしにそって、一本いっぽんの線路せんろが、南みなみへ南みなみへと続つづいています。「もうすぐ白鳥はくちょうの停車場ていしゃばだよ。」

窓まどの外そとでは、青白あおじろく光ひかる銀河ぎんがの岸きしで、銀色ぎんいろのすすきが、風かぜにさらさらとゆれていました。「あれは月夜つきよだろうか。」「月夜つきよではないよ。銀河ぎんがだから光ひかるんだよ。」天あまの川がわの水みずは、ガラスよりもすきとおって、音おともなくどんどん流ながれていきます。野原のはらには、青あおやだいだい色いろに光ひかる三角さんかくの印しるしが、あちらにもこちらにも立たっていました。

「ぼくはもう、すっかり天てんの野原のはらに来きた。」ジョバンニは、うれしくてたまらなくなって、足あしをこつこつ鳴ならしました。

「ああ、りんどうの花はなが咲さいている。もうすっかり秋あきだねえ。」カムパネルラが、窓まどの外そとを指ゆびさして言いいました。紫むらさきのりんどうの花はなが、次つぎから次つぎへと、雨あめのように目めの前まえを通とおりすぎていきます。小ちいさな汽車きしゃは、天あまの川がわの光ひかりの中なかを、どこまでもどこまでも走はしっていくのでした。

This is a LITIM Japanese digest (Part 1 of 3): our own retelling, in easy modern Japanese, of the classic 銀河鉄道の夜 (Night on the Galactic Railroad). It is not the original text.

How our digests work